ヒロインの話−オリガとイヴェット(『マラケシュ・紅の墓標』)
2005年4月6日 宝塚『マラケシュ・紅の墓標』感想の続き。
あ、4/4で「リュドヴィークは最後死んでいる」と言うようなことを書きましたが「生きている」と言う見方もありだと思います。
ラストシーンは、リュドヴィークが客席に背を向けて歩み去るところで終っているから。そのまま死者たちの隊列に加わるようにも見えるし、そうでないようにも見える。
更に、そうでない場合、彼は漂泊者として生きる道を見出したのか、それともその場に立ち尽くしているのか。
答えは、私たちにゆだねられている。
(プログラムには明示されていることを承知で、敢えて言っております)
さて、二人のヒロイン、オリガとイヴェットの話。
今までキャラクター中心に語っていますが、ここでは叫ばせていただきます。
あすかちゃん最高ーーっ!!
いや、今までもきれいでかわいくて上手い人だと思っていたけれど、こんなに凄いとは。
イヴェット(遠野あすか)は、元パリのレビュースター、落ちぶれた女優。
そして、リュドヴィークの元恋人。
銀橋での登場シーンから、鮮烈。
美人。ピンクのスーツに派手な帽子が良く似合う。
高飛車でわがまま、捨て鉢ではすっぱで棘だらけ。
「どうなの? こんなところに吹き溜まってる人たちって。クズだわ!
……私たちも含めてね」
と言い捨てる姿。
なのに何故か寂しげで人恋しげな風情で、惹きつけられる。
付き人ソニア(シビさん)の上手さも相まって、強い印象を残す。
圧巻は、パリの回想シーン。
スターとして絶頂期にあった、はずの頃のイヴェット。
白いダルマ姿、背中に白い羽。際立つスタイルの良さ。
なのに、この退廃感はなんだ。
タカラヅカの娘役が、白いダルマ姿で立っているのに。そこにいるのは夢世界の少女とはかけ離れた存在で。
絶望と渇望を宿した、すさんだ瞳。
そして、歌。
地声に近い、強い声。迫力の歌唱。
いかにも、ムーラン・ルージュではこんな歌が流れていたのだろうな、と思わせる歌い方。
「今夜のあたしを抱くのはだあれ?」と。挑発的な笑みを含んだ、でも笑っていない歌。
あすかちゃんって、こんなことまで出来るんだ。
普通に上手いだけじゃなくて。
すげえなおい。
感嘆しました。
取り巻きに囲まれていても魂の渇きを癒せないイヴェットは、リュドヴィークとめぐり逢う。
惹かれあう二人。
金の薔薇を手にしたリュドヴィークとイヴェットが「これがほんとうのおくりもの」と歌うデュエットは、この物語の最高潮、だと思う。
それゆえ、リュドヴィークを失ったイヴェットの傷は深い。
マラケシュでリュドヴィークと再会するとき、彼女はいつも泣きそうにゆがんだ顔をする。
しかもリュドヴィークはオリガに惹かれている。
オリガとやり直すことを決めたリュドヴィークは彼女から目を背けるように立ち去る。
ボロボロなイヴェットの前に、金の薔薇を追う男・ギュンターが現れる。
罪の意識と喪失感に苛まれる彼女は、それでも薔薇を手放さない。手放せない。
だってこれはあのひとからのおくりものだから。
追い詰められた彼女は、自らの手首を切る。
(そして「蛇」がそれを見ている。
生と死のあわい)
駆けつけたリュドヴィークに、イヴェットは金の薔薇を渡す。
あなたのせいにしていた、ごめんなさい。
幼い私の恋を捨ててきて、と。
そしてリュドヴィークは、オリガとともにパリへは行けないと悟る。
高慢な女優、傷ついた少女。
イヴェットと、彼女の物語は圧倒的な存在感を持っているけれど。
それでも、物語の構造的に、ヒロインはオリガなんだろう。
過去に生き、誰も愛せない男リュドヴィークと、愛と生と未来を志向する男クリフォードの、間にいる女性。
オリガ(ふづき美世)は、ロシア亡命貴族の娘。イギリス貴族の青年クリフォードの妻。
クリフォードの行方不明に騒ぐ伯母や義姉たちの中、彼女は何故か淡々と無表情。
「勇気があるわね」「愛ゆえですね」。夫を探しにマラケシュに行くというオリガに注がれる言葉も、彼女にとっては他人事のようで。
リュドヴィークとの中を疑ったイヴェットに敵意に満ちた態度を取られても、オリガは反応らしい反応を見せない。(反応して憤るのは、傷や挫折を知らず真っ直ぐに育った娘、ソフィアだ)
そんな、人形のような彼女の顔がほころぶのは、リュドヴィークの持つ石の花、砂漠の薔薇を見たとき。
昔似たようなものを持っていたから。
パリで失くした宝物。そして恋。
オリガは失くした恋と思い出を求めてリュドヴィークにすがり、リュドヴィークはそんなオリガとパリに行く気になり、二人はやりなおすことを夢見た、のだと思う。
でもそれはつかの間の夢、幻。
ラスト。
リュドヴィークは消え、クリフォードが戻ってくる。
オリガがやり直すために必要なのは、パリの過去を共有する男ではなく、パリの過去から引っ張り出してくれる男なのだと、抱きしめる腕が語る。
腕の中のオリガの表情はまだ硬いままだけれど(個人的にはそれが残念なのだけれど)。
でもいつか、朝日に笑えると良いなあと。
そしてイヴェットもマラケシュを去る。
「幸せに」と言うコルベットに「なるわ、意地でもね」と答えるのはイヴェットでなくソニアだけれど。
パリに戻ることを決めたイヴェットは、立ち直る一歩を自分の力で踏み出したのだろう。
幸せに。
……女は強いよなー。
傷を抱えた男たちは、死ぬかフェードアウトするしかなかったのに。
いや、実際強いかどうかはともかくとして、オギーはそう思ってるんだろうなと、勝手に推測しておりますが(苦笑)。
ところで余談。
パリの場面のオリガの衣装、何故『1914/愛』のアデルの衣装の使いまわしなんでしょう???
ちょうど一年前だし、舞台は同じパリだし、檀ちゃんがこの役だったら、とかうっかり妄想入っちゃいましたよ。
あ、4/4で「リュドヴィークは最後死んでいる」と言うようなことを書きましたが「生きている」と言う見方もありだと思います。
ラストシーンは、リュドヴィークが客席に背を向けて歩み去るところで終っているから。そのまま死者たちの隊列に加わるようにも見えるし、そうでないようにも見える。
更に、そうでない場合、彼は漂泊者として生きる道を見出したのか、それともその場に立ち尽くしているのか。
答えは、私たちにゆだねられている。
(プログラムには明示されていることを承知で、敢えて言っております)
さて、二人のヒロイン、オリガとイヴェットの話。
今までキャラクター中心に語っていますが、ここでは叫ばせていただきます。
あすかちゃん最高ーーっ!!
いや、今までもきれいでかわいくて上手い人だと思っていたけれど、こんなに凄いとは。
イヴェット(遠野あすか)は、元パリのレビュースター、落ちぶれた女優。
そして、リュドヴィークの元恋人。
銀橋での登場シーンから、鮮烈。
美人。ピンクのスーツに派手な帽子が良く似合う。
高飛車でわがまま、捨て鉢ではすっぱで棘だらけ。
「どうなの? こんなところに吹き溜まってる人たちって。クズだわ!
……私たちも含めてね」
と言い捨てる姿。
なのに何故か寂しげで人恋しげな風情で、惹きつけられる。
付き人ソニア(シビさん)の上手さも相まって、強い印象を残す。
圧巻は、パリの回想シーン。
スターとして絶頂期にあった、はずの頃のイヴェット。
白いダルマ姿、背中に白い羽。際立つスタイルの良さ。
なのに、この退廃感はなんだ。
タカラヅカの娘役が、白いダルマ姿で立っているのに。そこにいるのは夢世界の少女とはかけ離れた存在で。
絶望と渇望を宿した、すさんだ瞳。
そして、歌。
地声に近い、強い声。迫力の歌唱。
いかにも、ムーラン・ルージュではこんな歌が流れていたのだろうな、と思わせる歌い方。
「今夜のあたしを抱くのはだあれ?」と。挑発的な笑みを含んだ、でも笑っていない歌。
あすかちゃんって、こんなことまで出来るんだ。
普通に上手いだけじゃなくて。
すげえなおい。
感嘆しました。
取り巻きに囲まれていても魂の渇きを癒せないイヴェットは、リュドヴィークとめぐり逢う。
惹かれあう二人。
金の薔薇を手にしたリュドヴィークとイヴェットが「これがほんとうのおくりもの」と歌うデュエットは、この物語の最高潮、だと思う。
それゆえ、リュドヴィークを失ったイヴェットの傷は深い。
マラケシュでリュドヴィークと再会するとき、彼女はいつも泣きそうにゆがんだ顔をする。
しかもリュドヴィークはオリガに惹かれている。
オリガとやり直すことを決めたリュドヴィークは彼女から目を背けるように立ち去る。
ボロボロなイヴェットの前に、金の薔薇を追う男・ギュンターが現れる。
罪の意識と喪失感に苛まれる彼女は、それでも薔薇を手放さない。手放せない。
だってこれはあのひとからのおくりものだから。
追い詰められた彼女は、自らの手首を切る。
(そして「蛇」がそれを見ている。
生と死のあわい)
駆けつけたリュドヴィークに、イヴェットは金の薔薇を渡す。
あなたのせいにしていた、ごめんなさい。
幼い私の恋を捨ててきて、と。
そしてリュドヴィークは、オリガとともにパリへは行けないと悟る。
高慢な女優、傷ついた少女。
イヴェットと、彼女の物語は圧倒的な存在感を持っているけれど。
それでも、物語の構造的に、ヒロインはオリガなんだろう。
過去に生き、誰も愛せない男リュドヴィークと、愛と生と未来を志向する男クリフォードの、間にいる女性。
オリガ(ふづき美世)は、ロシア亡命貴族の娘。イギリス貴族の青年クリフォードの妻。
クリフォードの行方不明に騒ぐ伯母や義姉たちの中、彼女は何故か淡々と無表情。
「勇気があるわね」「愛ゆえですね」。夫を探しにマラケシュに行くというオリガに注がれる言葉も、彼女にとっては他人事のようで。
リュドヴィークとの中を疑ったイヴェットに敵意に満ちた態度を取られても、オリガは反応らしい反応を見せない。(反応して憤るのは、傷や挫折を知らず真っ直ぐに育った娘、ソフィアだ)
そんな、人形のような彼女の顔がほころぶのは、リュドヴィークの持つ石の花、砂漠の薔薇を見たとき。
昔似たようなものを持っていたから。
パリで失くした宝物。そして恋。
オリガは失くした恋と思い出を求めてリュドヴィークにすがり、リュドヴィークはそんなオリガとパリに行く気になり、二人はやりなおすことを夢見た、のだと思う。
でもそれはつかの間の夢、幻。
ラスト。
リュドヴィークは消え、クリフォードが戻ってくる。
オリガがやり直すために必要なのは、パリの過去を共有する男ではなく、パリの過去から引っ張り出してくれる男なのだと、抱きしめる腕が語る。
腕の中のオリガの表情はまだ硬いままだけれど(個人的にはそれが残念なのだけれど)。
でもいつか、朝日に笑えると良いなあと。
そしてイヴェットもマラケシュを去る。
「幸せに」と言うコルベットに「なるわ、意地でもね」と答えるのはイヴェットでなくソニアだけれど。
パリに戻ることを決めたイヴェットは、立ち直る一歩を自分の力で踏み出したのだろう。
幸せに。
……女は強いよなー。
傷を抱えた男たちは、死ぬかフェードアウトするしかなかったのに。
いや、実際強いかどうかはともかくとして、オギーはそう思ってるんだろうなと、勝手に推測しておりますが(苦笑)。
ところで余談。
パリの場面のオリガの衣装、何故『1914/愛』のアデルの衣装の使いまわしなんでしょう???
ちょうど一年前だし、舞台は同じパリだし、檀ちゃんがこの役だったら、とかうっかり妄想入っちゃいましたよ。
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