『Passion』の話、続き。

客席は4人がけのテーブル。
今まで行ったディナーショーはいつも8人くらいのテーブルだったので驚いた。この方がたくさん客が入るんだろうな。
テーブルの間も歩き回れる程の隙間はないので、客席下りは十字に通した通路のみ。
実は25日は通路際のテーブルでした。超絶美味しかった。あの至近距離はやばい。思考停止するね(苦笑)。

さて、宙組時代の作品に続いて。
「わたるさんのために作られた三つの作品の主題歌です」

ワタさんは、黒燕尾というニュートラルな衣装で現れた。
ひとつめは『夜明けの天使たち』から「憎しみの大地」。
私はこの作品をビデオで見た。
端正な燕尾服姿に、あの途方に暮れて惑う青年の姿が重なる。
そして、何度も繰り返し見たラストシーン。幕が下りる瞬間の表情を一生懸命に探った。

ふたつめは『TEMPEST』から「ナイトメア」。
黒い影が舞台を走り抜ける。南海・花愛・音花の三人。シャープなダンス。
そして、ワタさん。そう言えば、ここまでダンスらしいダンスが無かったなあ、と思う。翻弄される場面でありながら力強い、ワタさんらしい、ダイナミックなドラマのある踊り。
そして、となみ。足首の見える丈の白いドレスで、長い髪を下ろした姿で。ふたり切なく激しく。やがてとなみは幻のように去り、一人残される。

みっつめ。『月夜歌聲』から「月夜歌聲」。
途中まで歌っていた姿が、盛り上がる旋律のところで袖に消えた。暫くの後、再び現れる。白い仮面をつけて。そしてまた歌いだす。
違った。
今までイベントや録音で聞いたときと。
それは観る側の先入観かもしれないし、歌う本人自身も思うところがあったのかもしれない。顔を隠している分、歌に込められた思い。表情が見えない分、読み取ろうとする思い。
とにかく、今までに聞いたことがないような、あこがれとかせつなさとか力強さとか穏やかで深い愛情とか、その裏のひとつまみの絶望とか、そんなものがないまぜになった、歌。
勿論、私はこの作品を見てはいない。ぴあで公演があることを知ったものの、当時の私にはチケット入手の方法はなかった(ついでに粗筋を読んで素直にあの映画が原作だと思っていた)。
でも、今回聞いて、その姿を見て、思った。
これって、そういう歌だったんだ。

影ソロ、と言うか影デュエットは誰だったんだろう。みなみちゃん?コロちゃん?

万雷の拍手の中、ワタさんは去り。
三人娘が、今度は黒に赤を効かせたドレスで現れる。専科時代の作品。
「東京に来ない作品もありました」と言うことで(てことは大阪では「関西ではやらなかった作品も」とか曲が違うんだろうか)、まずは「ミレニアム・チャレンジャー!」。
リードボーカルみなみがえらいオトコマエな歌とダンスでした。客席アピールも怠りません。あのふんわりした風貌とのギャップがすごい。好きだ。

Acrossでも着ていた紫スーツで「アリアーヌ・愛の幻」。切なく。
そして一旦下手袖に引っ込み、上着を脱いで椅子を持って現れる。
上手からはとなみ。金髪のシャギーが入ったショートの鬘に、ラベンダー色のドレス。ウメちゃんがAcrossで着ていたものに似ている、ような気がする。あの時はメルヘンチックに見えたのに、雰囲気か曲のせいか、スタンドカラーがチャイナ風に見えて、大人っぽい。
曲は「Little Boy Blues」。影ソロは最初男役の録音かと思ったが、花愛ちゃんのようでした。ハスキーでドラマチック、すごいな。
挑発しあうように踊る二人……って、これ、嘉月さんと踊ってたやつか!
となみちゃんが、外見は美少女なのに大人の女の表情、大胆な振り、一種倒錯的な色気。とにかく美しい。
そして、そんな彼女に大人の余裕で対しつつ、ふと刹那溺れる男。

舞台にとなみ一人残り「ばらのスーベニール」。
瞳がきらきら輝いている。もしかして、泣いているのか。
大きな目に涙をためて「別れがこの世の定めなら」と高らかに歌うとなみ。泣くなとなみん……。

しんとした空気を破るイントロは「COPACABANA」!
通路下手側からワタさん登場。黒に金をあしらったラテン風衣装で。三人娘も客席で踊る。
「皆さん楽しんでますかー!」「何だか大人しいですよー!」「踊ってますかー!」うわぁ、コパだ(笑)。
ちなみに24日は立ち上がってワタさんと踊るおじさん登場。勇者だ。「おじさん」だから許されたんだよな、多分。 25日は「踊るわけないか」と自己ツッコミしてました。
舞台に戻って赤いドレスのとなみも登場。みんなで楽しく。

今回唯一のトークコーナー。わたとなで。
「今回はわたるさんの新人の頃の曲も歌いましたが、新人公演の失敗談をお聞きしたいなと……」とそこまで言って何故か語尾がぐずぐずになるとなみ。「思ったのね」とワタさん助け舟(笑)。
シメさんの退団公演で新公主役をやったとき、元々細い方なのに退団公演中と言うことで更に細くなっていて、衣装が大変だったと。ズボンがどうにか入ったけれどきつきつで「床に落ちたバラを拾って歌い出す場面があって、膝をついて拾わなきゃならないんですが、どうしようどうしようと思って」しゅったっ!と一瞬でめちゃくちゃ素早く拾う様子を再現してくれました(笑)。
ちなみにご本人は「退団公演でやせるかなと思ったけど、全然やせませんでした。身も心も健康で」だそうです。それは何より。
で「となみちゃんは? 何か失敗談ある?」
逆襲されたとなみ「たくさんありすぎて……」と口ごもり。すかさずワタさん「どうしてあんなにカツラ落とすの?」。わかりません、と更に口ごもるとなみ。
何でも『ベルサイユのばら』初日、牢獄の場面でやらかしたんだそうです。短い鬘の上から長い鬘を被っていて断頭台に上がるとき上の鬘を取る手順なんだそうですが、振向いたら髪が短くなっていたと(笑)。「どうするんだろう拾う訳にはいかないしロケットの時まで残ってたらどうしよう」とか頭の中早送りで考えたそうです。が、となみ本人は全く気づかないまま熱演。
「結局どうなったんでしょうね」「知らない」「知りません」だそうです。いや初めて聞いた。

と言うのは24日で、25日は「フェルゼンをやっている間は言えなかった失敗談」。全国ツアーでスウェーデン宮廷の場面、国王の前で跪いたときにビリッとズボンが音を立てて(…)一体どこが破れたんだろうどうしようどうしようと考えながら次は客席を駆け抜ける場面、マントで前を隠したまま客席への階段を下りたら……コケた。
「でも皆さん優しい」コケた瞬間照明さんはさっとスポットを落としてくれ、お客さんからは「大丈夫ですか」と声をかけられたそうです。「あの新潟の会場は決して忘れません」つかそんなことがあったのか(笑)。
あとは、本公演でフェルゼンとアントワネットの逢引の場面、船に乗り込むのが大変だった話。スタッフさんが黒い幕を掲げて客席から見えないようにしてくれていたんですが、新人公演を見たら、幕を掲げている様子が客席から見える! これはまずいと翌日から、先に乗り込んだワタさんが幕を掲げ、となみちゃんが「お邪魔しまーす」と乗り込むことになったと。曰く「忍ぶ恋は大変」。

冷や汗かきつつとなみ退場、次はオリジナル曲「スターダスト・アイズ」。
「阪急ホールディングスの角社長の作ってくださった曲です」。……ここで、宝塚のトップスターは阪急社長に曲を作ってもらえるのか、とか、阪急の社長になれば宝塚トップスターに自分の曲を歌ってもらえるのか、とか客席思っただろうなあ(で、客席では後者が多いんじゃないかと)。
学生のときバンドをやっていて、そのときに作った曲だそうで、ワタさん曰く「大変美しい、ナイーブな曲です」と。
いつの間にか星が降り始めた、というようなフレーズで始まる曲。実際、美しくナイーブな、寂しげだけれどどこかすがすがしい、しみじみといい曲でした。「夢を見続けるために瞳は閉じない」という歌詞が印象的。60〜70年代フォークソング風の素朴な感じが、ワタさんの声に合っていたなあと。意外な、と言っては失礼だれど、意外な拾い物でした。

「たった一度だけの」芝居はいまいちだったけれど(シビさんとワタさんの熱演で山場盛り上げてはくれたけれど)、主題歌はいい曲だよね。「たった一度だけの特別な人生…」と歌われると、ああそうだなあと。

「愛の面影」この声を聞くと、あの一幕ラストを思い出した。階段を上がりその奥に消えていく横顔に、あの日の銀橋ですっと横を向く決然とした表情を重ねた。

長い後奏が終わり。
白い衣装で現れたワタさん。今まで数々の宝塚の歌を歌ってきました、と。私を育ててくれた歌です、と。
そして「最後の曲になりました」。
歌は「Story」。
……「Across」と「ANNIVERSARY」と「Story」はいきなり歌うの禁止。(でも全部シングルコレクションCDに入ってるんだよ)
途中、照明も真っ白になって、白い衣装の姿が浮かび上がる。
白く、明るく輝く星。
眩しかった。

***

長くなりすぎるので、カーテンコールは2日まとめて別欄に続く。

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