4/1(土)14:30公演、観て参りました。
面白かったです。見に行った甲斐はありました。。

格好いい、とにかく格好いい。
まず、舞台自体が格好いい。
オープニングのダンス。黒尽くめの人々の中に、白いスーツに黒いコートを羽織ったらんとむ氏、白尽くめのきほちゃん。
悪魔たちのビジュアルもスタイリッシュ。わずかな衣装の変化で、人間のダンサーと悪魔の違いを表現、早替わりする上手さ。廃教会をあらわす、床に映し出されるステンドグラスのおぼろな影。
八百屋舞台とパントマイムの多用、そして袖に引っ込まず舞台両脇で影コーラスしたり衣装換えするのは、正塚せんせのマイブームなのかな。照明が暗いので『Bourbon』のときほど「実験作」という感じにはなりませんでしたが。

ストーリーは、えーと、私は事前に評判を聞いていたので。
『MIB』だとあらかじめ思っていれば、楽しくノリについていけました。
でも、何の予備知識もなく、しかも正塚作品だという先入観をもって観ていたら、後半置いてきぼり食らったかも。

主人公・ショーン(蘭寿とむ)は、ある日事故に遭い3ヶ月の昏睡状態の後に復活する。目覚めた彼は、人間に取り付き破滅させる異界の生物=悪魔が見えるようになっていた。悪魔に唆されて恋人ジェシカ(野々すみ花)は死ぬ。彼の言葉を信じるのは元牧師にして悪魔祓いの変人サム(愛音羽麗)と、不思議な少女サーシャ(華城季帆)だけ。サーシャと恋に落ちたショーンは、彼女のためにも悪魔と戦う決意をする。

前半は、結構シリアスなのですよ。
らんとむ氏の開幕アナウンスから既にサスペンスホラー色入っているし、恋人も仲間も失い孤独に街をさまようショーンは思い切り深刻。悪魔に殺されようとする友人にして恋敵・フランク(悠真倫)を心配し救おうとするのもどシリアスに熱演。
ああ、そういう話なんだな、人間を殺すことをゲームとして楽しんでいる、能力的に勝った生物である悪魔に対して、馬鹿にするなよ人間には心があるんだぜと、愛と友情を糧に立ち向かう物語だと思うじゃないですか。
ところが後半は、妙にドライ。ドライなコメディでややブラック。緑野さんが『MIB』と書いてましたが、そう言われて納得のノリ。
例えば、ショーンの前にジェシカの姿をした悪魔が現れる。ショーンは傷つきつつ悪魔の悪趣味なやり方に怒りを覚える、という展開を予測する。ところがショーンは苦悩する様子もなくジェシカ悪魔をしっしっと言う様子で追い払う。えー?
例えば、サーシャが昏睡状態になる。悪魔の世界に連れて行かれた彼女の魂を救うには、肉体的に死なければならない。主人公がヒロインを救うために命を捨てる、盛り上がってしかるべき場面。なのに、ショーンとサムのどたばたアクションの末に銃が暴発して「あ、死んじゃった」っておい。その直前、ショーンがサーシャを救う決意を語るところまではシリアスなのに、何故そこで落とすかなあ。
何だか、書いてる途中で気が変わったんじゃないかと勘繰りたくなります。この前半と後半のノリの乖離は。コメディならとことんコメディにしてくれればまだ落ち着きが良かったと思うんだが、どうしてこうなっちゃったんだろう。

あとは、オチが問題。
いや、いいよ、安直なオチでも。でも、そういうオチをつけることによって山のように疑問が噴出すると言うのはどうなんでしょう。
えーと、この事件がサーシャが仕掛け人のスカウト劇だったって、それはどこからどこまで? ショーンが事故にあったところから? それともサーシャとの出会いから? 悪魔たちは本物、それともあれも仕掛けか協力者? 仕掛けだとしたら誰と誰が? アズ(未涼亜希)はラストでサーシャに顎で使われていけど、ラルゥはそもそも存在したのか? サムとの関係は? サムも仕掛けで実在しない人間? つか、これまでの物語が全て夢と言うか脳内体験?
せめてサムもサーシャの上司として出てきてくれればまだ納得が行ったんだけど、でもまあ焼け石に水かなあ。
その辺の「ええー何そのオチ、それで終わりかよ」と唖然としつつ、主役カップルがさわやかに笑いあっているのを見るとハッピーエンドな気分にさせられるところも、ハリウッドムービーっぽいなあと思いました。

いや、面白かったですけどね。出演者も舞台も格好良かったし、芸達者だし。そういうもんだと思って頭空っぽで見るのに適した舞台だと思います。(でもそれには前半の深刻さがやっぱりアンバランスだよなあ……)

以下、出演者について。

ショーン=蘭寿とむ
……格好良かったっっ!!
白スーツも黒スーツも黒のロングコートも似合いすぎ。『Ernest』のときも思ったけど、肩幅や足の長さが男役として魅力的な体型なのだなあと。長めの髪も似合う。それをばさっと書き上げる仕草がまた様になってて、もう格好いいったら。この色男め。
安定して上手いので、コメディもシリアスも安心して見ていられるしね。そしてそのホットでハートフルな芸風。熱い男で、あったかい恋人で。おかげでサーシャへの唐突な恋に落ちっぷりの安直さとか、いきなり世界を救うことに目覚めちゃうご都合展開とか、元恋人に対するヒトデナシな態度とかがかなり誤魔化されております。サーシャを抱きしめる姿、彼女の髪を撫でる様子はもう理想の男子。
と、言いつつ。私がまず最初にときめいたのは、悪魔たちに翻弄される姿だったりするかもしれません。どうも、ああいうタフで陽気で健康的な色男が、翻弄されて途方にくれた目をしてたりするのに弱いらしいです。どきどきした。
あと何と言っても「震える睫毛」! ひとり孤独に街をさまようショーンが歌う歌でそういうフレーズがあるのですが、そこだけ急に耳に飛び込んできました。何ですかそのいきなりの甘く切なげな歌い方は。その声とその表情でそんな歌詞歌われたらびびるじゃないですか。
えーと、まあ要するにらんとむ氏は好みだって話なんですが(苦笑)。でもそれを差し引いてもマジで格好良かったと思います。主人公が格好いい、格好良く見えるというだけでもこの作品は価値がある。

サーシャ=華城季帆
ヒロイン。どこかずれている不思議少女として登場、結局悪魔たちに操られている「人形」であることがわかり、と思ったらラストはきりっと対悪魔の戦士でスカウト係として現れて。
普通の、感情的に真っ当な芝居ではない、結構難儀な役だと思います。きほちゃんは上手い、安定して上手いから難なくこなしていたけれど、でも彼女の魅力が十分に生かされる役ではなかったんじゃないかな、勿体無いな、という気はしています。自我と命令の間で壊れそうになる姿とか迫真で、すごく上手かったんだけどね。冥界にまで助けに来てくれたショーンのことを忘れているはずなのに思い出して「ショーン?」と言う場面もすごく良かった。らんとむ氏ときちんと組んで芝居し甲斐のある作品ならばもっと見ごたえのあるものになったんじゃないかな、見たかったなと思いました。
勿論、きほちゃんは十分魅力的でしたが。まず美人、そして素晴らしいスタイル。全員黒ずくめが基本の衣装の中で彼女だけが常に白なんだけれど、それが似合うこと。一人だけ特別な存在なのが見ただけでわかる。長い金髪も似合って、綺麗だし可愛かった。声がまた綺麗でヒロインとして説得力。と言うか聞いていて心地よかった。らんとむともお似合いでした。

ラルゥ=桜一花
すげー。
キュートでダイナマイト、ウルトラハイパーパワフルな小悪魔。でも小悪魔ってだけじゃない、真顔になると大物悪魔の風格。ものすごい存在感。
めちゃくちゃ上手い。オレ様喋りで仁王立ちしてるかと思えば次の瞬間には「いやぁん」とぶりっ子声で身をよじってみたり、変容変化自由自在。ショーンに「キャラクタを統一しろ!」と言われるのだけれど、その全てが板についている。本当に上手い。安定した実力。ショーンとラルゥがじゃれあう(と言うかラルゥがショーンを翻弄して遊んでいる)ところとか、両方とも自然すぎて演技に見えないもん。
シリアスモードも上手い。暗がりに座って覚めた目で人間たちを見ている姿はぞっとするほど人外の生物。そしてびびったのは老婆との二役。サーシャをコントロールするベールを被った老婆が一花なのはわかっていたけれど、扮装を脱いで老婆の声で種明かしをするところ。無表情なのがかえって凄みがあった。いや迫力。
姿は本当にちっちゃくて可愛いんだけどねー。ドレッドのポニーテールで跳ね回る姿なんてゴムまりみたい(笑)。
とにかくあまりの存在感に「この公演の二番手は一花」と真顔で思っております。

サム=愛音羽麗
牧師崩れのエクソシスト、でいいのかな。
ダサダサなニット帽に眼鏡、だぼっとした上着で登場した姿を見て「あ、錦織さんだ」と思いました。少年隊のニッキと言って通じるだろうか。いや、私が見ていたのは十年e以上前だけど、3人の中で一番ぎらついているのにとぼけてギャグを飛ばしまくるのも一番な人だったんですよ。それを思い出した。(……そして私は3人の中で一番彼が好きでした)
妙な発明品を嬉々として抱えてやってきたり、これまたハリウッドのアクション映画の脇役に出てきそうなマッドサイエンティスト系のとぼけたギャグメーカー。それをすげー自然にこなしていてびっくり。もうちょっとエキセントリックでもいいかとは思いましたが。
あと歌! 悪魔の科学的根拠説明ソング。エーテルが飛んでいるような珍妙な音階と発声! あれすごい。学生時代にやった現代音楽の合唱曲を思い出した。
その一方で群舞では殆どみわっちに持って行かれました。オープニングから、あれ、と思ってオペラを上げると常にみわっち(笑)。

書ききれませんが(と言うかみんな色々やってて1回ではセンター以外見切れなかった)、登場人物みんな良かったですよ(個人的好みで言うとまあくんが可愛かった・笑)。だから話が多少アレでも楽しめたんだろうな。出演者ご一同に拍手。

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