『落陽のパレルモ』新人公演。

ヴィットリオとアンリエッタの肖像画が現れると一斉にオペラが上がり、さざなみのような笑い声が。
いや、オサさんとふーちゃんの写真にみつるくんとあやねちゃんの顔写真が貼り付けてあったので。やっぱり妙だよなあ(苦笑)。

それはさておき、思ったこと。
やっぱりこの脚本、ちょっとうまくないところがあるのかもしれない。
ヴィットリオとアンリエッタのラブストーリーとして見ていると、ラストで焦点がボケるのだ。

二人の別れ、ヴィットリオの母が身を投げる回想場面と彼の銀橋での絶唱。その後、間髪入れずにドンブイユ家の場面になる。
ここ、間に現代パートを挟むとかした方がいいんじゃないだろうか。。
と言うのも、母の死を思うヴィットリオが寄る辺ない少年のようで、そのままの表情で父・ドンブイユ公爵との父子の再会を果たすので。話のテーマが、親子ものにスライドして見えるのだ。
だから、現代カップルの一応のハッピーエンドはここに入れて「ところでヴィットリオとアンリエッタの恋物語はどうなったの?」とジュディッタが聞いて、ヴィットリオ・Fが「それはね」と続けて過去パートに戻るとか、ワンクッション置いた方がいいんじゃないかと思う。

続く舞踏会の場面も同様。
ヴィットリオは階段の上に立ち、集まった客達の中にアンリエッタがいる。血を吐く思いで別れた恋人達の感動の再会を期待するのに、脚本も演出もそれを盛り上げてくれない。ドンブイユ公爵の演説があり、ロドリーゴが貴族の矜持で身を引いた後で、初めて二人は手を取り抱き会う。
ここ、アンリエッタが現れた途端にヴィットリオが駆け寄り「アンリエッタ!」「ヴィットリオ!何故?」となり、ドンブイユ公爵が説明する、と言う流れの方が、二人の愛の物語としては盛り上がるんじゃなかろうか。公爵の演説が感動的なだけに、それを大人しく聞いているヴィットリオが主人公に見えない、とは言いすぎだけれど、子供に見える。

更にその後のラスト。ヴィットリオとアンリエッタ、ヴィットリオ・Fとジュディッタの台詞の掛合い。
これ、無い方がいいよね?
世代を超えて受け継がれる愛と生命、これこそがテーマ、と言う意図で語らせたのだろうけれど、ラブストーリーとしては蛇足な気がする。ヴィットリオとアンリエッタが肖像画のとおりに寄り添ってラスト、くらいでいいのでは。
思えば景子先生は『Last Party』でも最後登場人物たちにテーマを語らせていて、余計だなあと思ったけれど。

新人公演=別キャストで見て、今まで「いい作品なんだけどちょっとひっかかる」と思っていたことが私的にはっきりしたのが、上記の点。
勿論、これらは机上の空論なので、実際変更したらやっぱり元の方がいいと思うかもしれない。また、新人公演を見て思ったことなので、本公演キャストに合うかどうかは更にわかりませんが。

以下、出演者について。

ヴィットリオ=華形ひかる
すごく良かった。格好よかった。
アンリエッタに出会った瞬間の恋に落ちた表情。彼女が人間は平等だと言った時の嬉しそうな表情。祭りでアンリエッタの手を引く明るい表情、生き生きとした若者らしさ。そして、別れを決意した後の銀橋での絶唱と涙。
その後も、上述のとおり「寄る辺ない少年のよう」で、正直恋愛物語のヒーローとしては違う気がしたけれど、それは脚本の流れには合っているので。そして何よりその寂しさ、切なさ、戸惑いが胸に迫って。どうか幸せになってほしい、と思わせられた。
アンリエッタを抱きしめる時、喜びと言うよりほっとした安堵のような表情をしているのを見て、本当に良かったなあと思えた。
外見的には、軍服のマント捌きを頑張っていてなかなか格好いいなあと。もうちょっと背があれば。それが残念。でもきらきらした美形で、格好よかった(面食い)。よく見ると雪のキムくんとちょっと似ている?

アンリエッタ=桜乃彩音
アンリエッタは難しい役なんだ、と思った。
彩音ちゃんのアンリエッタは令嬢で、少女で、恋する乙女。初めての恋に激しく強く、真っ直ぐに飛び込んでいく少女。
でも、脚本から感じるアンリエッタ像はそれだけの女性ではないと思ったので。
気品ある貴族の令嬢であり、恋する乙女であり、新しい時代に目を向ける聡明な女性であり、激しい情熱を秘めたシチリアの女。比べて思ったのだけれど、本役のふーちゃんに対しては恋する乙女の一途さや貴族令嬢と言う部分に若干物足りなさを感じる。彩音ちゃんは啓蒙書を読む社会性や公爵家長女としての大人の部分が見えなくてやはり物足りなく感じて。
難しいヒロインなんだと思う。
でも、それは欲張りすぎと言うものかもしれない。
彩音ちゃんのアンリエッタ、そしてそれに対するみつるくんのヴィットリオが少年少女の純粋さでお互いを愛していることが伝わってくる。まさに、ロミオとジュリエットのように。
だから、激しく美しいラブストーリーとして楽しめたし、陶酔できた。
彩音ちゃんは、あまり演技派と言う訳ではないのかな、と思った。本人のキャラクタと感情で役になるタイプ。品があってお姫様がはまる人なので、良かった。思えば『マラケシュ』のオリガも貴族令嬢らしさがはまっていたと思う。
祭での可愛らしさ、そして嵐の一夜、ヴィットリオが去ろうとする時にマリア像に一心に祈りを捧げていたのが印象的でした。その切羽詰った必死な様子が、その後のヴィットリオを引き止めて誘う姿につながって見えた。そこまで思いつめているからこその一夜であり、神の前に誓った二人きりの結婚、と見えた。

ヴィットリオ・F=朝夏まなと
実はぴったりはまるだろうと一番期待していたのですが、想像したほどではなく。まなとくんは意外とお坊ちゃまキャラではないんだなあ。本役のゆみこちゃんがはまりすぎるのか。最初緊張したのか歌がえらいことになってましたが、段々入り込んでくると持ち直して演技も良くなってきました。全体的に『マラケシュ』の方が良かったかも。まだ若いし今後に期待。

ジュディッタ=華城季帆
上手い。主要カップル2組4人の中で一番安定感がある。特に歌は圧勝。まぁくんを支えてくれて良かった。

ロドリーゴ=望月理世
わかりやすく恋敵でした。何だか薄っぺらで間抜けそうな感じで、こういう役作りもありかと。おかげで主役二人の物語が純粋なラブストーリーとして際立ちました。関係ないけど理世くんがちょっと悪役面に見えるのは私だけですか?

ニコラ=扇めぐむ
格好よかった! 周囲皆絶賛。
何と言っても長身が映える男役らしいスタイルの良さ。遠くからでも表情がわかる顔と言い、大劇場の舞台向けの人だなあと。
演技も空回りしすぎない程よい熱さで頼りがいのあるいい兄貴で、格好よかったなあと。新公はヴィットリオの方が若く見える。土地に根ざしているからこそその目線でしか生きられない自分を知っている、大人なニコラ。家族と言う根を持たない孤独ゆえに自由な縛られない視野で理想を追う若いヴィットリオ。その関係性が良かったです。

あと皆良かったですが、脇の老け役3人が素晴らしかった。ドンブイユ公爵=紫峰七海、カヴァーレ公爵=嶺輝あやとの渋さ、格好よさは新公レベル超えてます。そしてエルヴィラ=桜一花の驚嘆の上手さ。実は終演後の最初の感想は、一花ちゃんうめー!でした。

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