『風を結んで』見て参りました。
ぴあで5列目ゲット、と会場に行ったら実質3列目でした。先端恐怖症の人は前方に座らない方がいいかも。刀や槍を振り回すので(ちょっと怖い)。

がーがー泣いた。
客席が明るくなっても席から立ち上がれなかった。無理に立ち上がったら足がもつれた。
暫く口が利けなかった。感想を語るには舞台から放射されたものが大きすぎて重すぎて、すぐには言葉にならなかった。

前作『タック』から類推して予想と言うか覚悟していたとおりではありましたが。TSは、こういうものを創るところなんだなあと。ええ、消耗しました。すがすがしい消耗ではあるのだけれど。

時は明治初頭。武士は職を失い廃刀令で己の拠り所も失いかけていた。そんな士族の青年、片山平吾と友人たちが、ひょんなことからアメリカ帰りの富豪令嬢と出会う。彼らは日本におけるショービジネスの確立を目指す彼女に雇われ、侍パフォーマンス一座を結成することになる。

チラシで、時代背景に西南の役が匂わされていたので、シビアで悲劇的な話かと予想。
が、劇団結成という予想外の展開。それぞれ事情を抱えた侍が一人ずつ一座に加わる様子は、何か希望に満ちたことが始まりそうで、わくわくした。

時代の変化に迷い、日々をやり過ごして生きてきた平吾が、家のために犠牲になろうとする静江の姿に「そんなのは間違っている」「俺は生きるために生きる」と腹を決めて、走り出す。
走り出した平吾の姿は友人たちを動かし、捨吉を動かし、お嬢を動かし、ついに静江の兄、右近を動かす。
希望に向かって、光に向かって突っ走る彼のまわりに、人が集まる。

しかし、時折挿入される場面。
忘れるには近すぎる過去、白装束の侍たち。
現在、そして未来に射す戦の幻影。赤い衣の鬼、舞神。
そして、客席にのみ見せる、捨吉の厳しく暗い瞳。

以降のストーリーは、書かないことにします。
見るなら、予備知識無しで彼ら一人一人の生き様を目の当たりにして、飲み込まれて欲しいから。

ただ言えるのは。
泣いたのは、人が死ぬからじゃない、可哀想だからじゃない
彼ら一人一人が、全力で、真っ直ぐに、精一杯生きているからだ。
己の生き方を全うするために、突っ走っているからだ。
……元々群像劇に弱いしな、私。

以下、役とキャストの話。

片山平吾=坂元健児
主人公。
『タック』に続き、裏も悪意もなく真っ直ぐなヒーロー。だから皆彼に惹かれる。
いや正直、若干出来すぎなくらいの男なので、途中まで彼が剣の腕はいまいちの見習いだということに気づきませんでした(笑)。
歌(ハイトーンボイスで鈴木氏とまた違うタイプ)もダンスもパワフルで、舞台を引っ張ってました。

捨吉=鈴木綜馬
すげー上手い(呆然)。歌は一人で格が違う感じ。上手さだけでなくて歌唱スタイルも違うのか。狂言回し的な役柄なので、それも良い方に作用していました。上手端で苦悩の表情を浮かべて佇んでいることが多くて、色々深読んじゃいましたよ。
お嬢へのお仕えぶりもはまってます。カーテンコールで逆方向に行こうとするのを、捨吉、と呼び止められてひょこひょこついていくのが楽しい。

轟由紀子=絵麻緒ゆう
この役名は一体(笑)。ウケ狙い?
強く凛々しく格好よく素晴らしいお嬢っぷり。
洋行帰り、英語交じりで喋りまくるハイテンションお嬢様。旧弊な男どもに愛想を尽かし、この手で日本におけるショービジネスを始めるのよ!とやる気満々(正直変キャラ紙一重・笑)。
当然侍たちとは対立する。過去の日本を懐かしむ貧しい武士である男たちと、アメリカかぶれで富豪商人の娘である彼女は何から何まで正反対だから。この辺り「女だてらに」という表現でなく、価値観の違う人間同士の対立、として描かれていたのが見ていて良かったなあと。最初は自分の考えを押し付がちなのだけれど(彼女も突っ走りタイプだから)、平吾や静江と出会って彼らの言葉に耳を傾けたり、根はいい人。
ついでに。「轟由紀子一座」を立ち上げる彼女、「TSミュージカルファンデーション」を設立した謝珠栄氏がモデルだったり?
出演者が少ないため早変わりでモブもあり。激しい剣舞も見られます(風花さんはぱっと見でわかるけど、ブンちゃんは探しました・笑)

橘右近=今拓哉
道場一の達人、であるらしい。変わる時代の中で武士の矜持を守って生きようと苦悩する男。平吾のことも認めつつ、武士であることを捨てきれない男。
平吾の動に対して静、あまり表情を露にしない。だからこそ時折洩らす本音が重い。役に合っていたと思います。

静江=風花舞
右近の妹。綺麗で可愛らしく慎ましい武家のお嬢様。赤い着物もお似合いでした。
走り出してまわりを動かすのは平吾ですが、彼に火をつけたのは静江。この二人の不器用な惹かれあいがぎこちなくも微笑ましかったです。と言うか静江はともかく平吾は自分が静江に惹かれていることもわかってないんじゃないのか?
由紀子とのデュエットも良かったです。対照的な二人の女性の、相手を認めつつそれぞれの生き方がある、そんな関係(多分静江の方が年下だけど、静江の方が大人か?)。
ダンサーとしての場面も多々ありました。象徴的に出てくるのだけれど、これがもうキレイでキレイで!
すごい上手いんだけど、やっぱり「上手い」というより「きれい」。
私は俄かヅカファンなので在団時の彼女の舞台は見ていないのですが、すごいダンサーなんだなあと。

田島郡兵衛=畠中洋、加納弥助=川本昭彦
平吾の仲間、3バカトリオ(笑)。
兄貴分で図々しいが憎めない郡兵衛と、気弱で情けない弥助、という役どころ。弥助が「平吾が静江を助けようとしたことが嬉しかった」自分も次男坊で家に居ても居候のような身分だから、と訥々と語る辺り、しんみり来たなあと。
しかし川本さんまた眼鏡くんですか!とウケまくる私とサトリさん。

栗山大輔=福永吉洋
平吾たちに助けられて一座に加わる男。
静かな演技がちょっと意外でした。ほら、その前に見たのがパンタロン刑事だったからさ(をい)。でもその、真面目な普通の人であるところが良かったです(しんみり)。

斎藤小弥太=幸村吉也、新田伝四郎=平野亙
平吾たちに助けられて一座に加わる。デコボココンビ(笑)。
一座の中でも若いそうだけれど、特に小弥太は血気盛んな少年と言う感じかなと。すぐムキになる顔をしているし。
あまり出番も台詞もないのだけれど、過去に何かあるわけでもなく家の責任があるわけでもない普通の若者が、刀を、武士の生き方を捨てられず無邪気に夢を見る、あたり、逆に切ないなあと。
ダンスシーンを漠然と見ていて、うわ浮いた、と言うか飛んだ!と思ったら幸村さんでした(割と贔屓)。

佐々木誠一郎=武智健二
好みです(笑)。役どころもビジュアル的にも。プログラムで出演者に「男性像(or女性像)として好みな登場人物は?」という質問をしているけれど、私は誠一郎くんがいいです(誰も聞いてません)。
彼もまた真面目でいい人だよなあ。つーかみんな真面目だよなあ……。

一種ファンタジーであった『タック』に比べて、歴史上の事実、知識として知っている時代背景の今作の方が、やや客観的に見られました。比べると主人公たちの年齢層が高いこともあるか。
パワフルなダンスアクションは期待通り。この、理屈ぬきに揺さぶられる快感も、今時テーマを真っ直ぐにてらいなくぶつける舞台に説得力を持たせていました。

コメント

お気に入り日記の更新

日記内を検索