ミュージカル『最悪な人生のためのガイドブック』観て参りました。
私、実は川平慈英のファンなもので。
ええ、明るく暑苦しく濃い男が好きなんです(笑)。確か十代の頃は耽美系の美形が好きだったはずなんだが、いつから趣味が変わったんだろう。

それはともかく。
すげー面白かったです! 笑って泣いたよ。
金と暇があったらもう1回くらい見たかった。既に東京公演も終ってて今日千秋楽なんだけど。

・ドイッチ=川平慈英。主人公。42歳フリーター、ピザアミーゴの配達人。仕事は好きだが正社員になんかなりたくない、未来に縛られたくない。もう厄年なのに。
・アベコ=キムラ緑子。38歳ライター。ドイッチの恋人。不倫相手のマキと別れたその夜、ドイッチと運命的な出会い(笑)をして、3ヵ月後に同棲。
・オノッチ=森山未来。ドイッチのバイト仲間。ビッグになりたい21歳。
・キヨッペ=堀内敬子。オノッチの彼女。オノッチの計画性のなさがちょっと不安。
・ムラキ=小林隆。58歳ピザアミーゴ支店長。ドイッチとオノッチの上司。いいひと。
・トリコ=三鴨絵里子。アベコの友達。恋愛中毒。不倫相手がおどおどびくびくしているのを見るのがたまらないらしい。
・ババ=近江谷太朗。トリコの不倫相手。不倫の末に離婚で憔悴、慰謝料支払いのためパチプロを目指す。
・マキ=草刈正雄。ピザアミーゴ社長。他にも多数会社経営中のエグゼクティブ。ジャガーに乗る男。アベコの不倫相手で今もアベコに未練。
・ミチル=伊織直加。マキの美人秘書だが、カンチガイストーカー女。でも憎めない。

この9人が繰り広げる物語。

舞台は渋谷。センター街を模した装置と、歩道橋。歩道橋の上はアクペラグループ・トライトーンの舞台でコーラスやBGMを歌う。テーブルや椅子を入れ替えることによって、アベコの部屋、二人が同棲を始めたマンション、マキのオフィス、レストランと変わっていく。なかなか面白い。
私は大阪で見たけれど、実際に渋谷にあるPARCO劇場ではもっと臨場感があったんじゃないかな。「森のレストランってどこなんだ!」「森ビルよ」なんてやりとりも。ウケてたけど。

結構、上手いこと言うなあ、と感心した台詞がたくさんありました。
「昔の大人は大人だった」「この街は危険だ。楽しいことが多すぎで僕のような大人が出来てしまう」「どうしてか(理由が)わからないことが一番強い」

そして私が一番なるほどと思ったのが、
「愛なんてない。愛の証があるだけ」。

同棲して1年、アベコは最初新鮮に見えたドイッチの三年寝太郎ぶりに我慢がならなくなってきた。だって彼女はコツコツ働いてライターの地位を築いてきた人だから。そんなときにアプローチしてきた昔の男・マキと4度目のデート。それをミチルがドイッチにチクったからさあ大変。あの短絡的な男は何をしでかすかわからない!と動転したアベコは、マキを道連れにドイッチを探し回る。
それなのにドイッチは、やはりオノッチとケンカして傷心のキヨッペと同病相哀れんで酔いつぶれた勢いでキスしてたりして、話はどんどん収拾がつかなくなっていく訳ですが。
このことは物語の最後で、マキの口からもう一度語られます。
「振り回されて馬鹿馬鹿しかったよ。あの時わかった、アベコは君を愛している」
そしてトリコも、アベコとの仲をどうするか優柔不断に悩むドイッチに迫る。
「愛は生まれるものじゃないのよ、育てるものなのよ!」
もっと言っちゃえば愛なんてないのよ、愛の証があるだけよ。
「アベコはあんたを必死で探し回ることで愛の証を見せたわ。あんたはどうするの」と。

それを受けてのドイッチからアベコへのプロポーズ?(笑)もよかったなあ。
自分の、ゴールを目指さず道のりを楽しむ生き方をガイドブックに例えて「僕のガイドブックは本屋の本棚の隅に置いてあって大勢の人には買ってもらえないかもしれない、けれど、君はそれを買ってくれるかい?!」と言うドイッチに「そのガイドブックを買うとどうなるの? 立ち読みしなきゃ買えないわ」と答えるアベコ。
「疲れてる?」
「疲れてるわ。給料は増えたけどその分マッサージ代で消えてくし、お酢がいいって言うから部屋中オレンジやグレープフルーツを漬けたお酢の瓶だらけよ」
「マッサージしてあげる。お酢の瓶も作る」
そして、
「マッサージしながら、僕が見たり思ったりした色々なことをたくさん話す。君の話も聞きたい。完全に分かり合える人間なんていない。でも分かり合おうとすることが大切なんだ。大事なのはコミュニケーションだ」
そして更に、価値観が違っても見ているものが違っても、手をつないでいれば一緒に旅はできる、と。

泣かされました。こういうプロポーズされたらぐらっとくるかもと一瞬思いました(笑)。
いや、私は軟弱者なんで、あんまり見ているものが違う人間とその都度コミュニケーションしてギャップを埋めていく関係というのは、やっぱり疲れそうだと思うけども。
それを約束できるというのは、二人はやはり愛し合っているし、強い人たちだし、お似合いなんだろうと。

生き方論については結論は出していませんでしたが、ゴールを決めて目指すのも有り、決めずに目指さないのも有り、という感じなのかな。
それでも決めるときは決めなきゃいけないし、決めたら頑張れ、と言うか。
それでいい、っつーか人間賛歌だなあ、と思ったよ。
20代のオノッチとキヨッペ、40前後のドイッチとアベコ、それより更に年上のマキやムラキ。世代論的なところもあったけれど、それもそれぞれでいい、という感じで。
ドイッチとオノッチの世代も性格も越えた友情が良かったです。特に、イマドキであまり熱くならなそうなオノッチが、ドイッチのためにムキになるあたりが。

あとやっぱり、ミュージカルって楽しいなあ。
歌ったり踊ったりが始まると、わくわくする。
と言っても、現代東京が舞台・普通の人達が主人公の話なので、ナンバーもローテンションと言えばローテンションなんですけどね。
♪ドイッチ苗字が土井だから、ドイッチと呼ばれてるー、なんて、面白かったよ。
ミュージカル的に楽しかったのは、オノッチ・キヨッペ若者カップルの「フィンガー・ダンス」。二人はすぐ側にいるけれどメールで話をする、って携帯メールの歌なんだけど、森山未来と堀内敬子なのでやたら歌とダンスのレベルが高いんだわ。リフトもあるよ。
そして堀内さんがきびきび踊っているのを見ると、つい『タック』を思い出してしまう私。相変わらず可愛くて年齢不詳(失礼!)でした。

キャストはみんなはまってて良かったですが、特にマキの草刈正雄。
うさんくさい二枚目、素晴らしかった!(笑)
で、うさんくさいんだけど、アベコには本気なんだよな。今まで叶姉妹みたいなのばかり相手にしてきたのに、いや、してきたからか。「こんな女初めてだ」ってパターン。ドイッチと仲たがいさせるために小細工したり、大物だか小物だかわからないあたり可愛くすらある。
「どうしてかわからないことが一番強い」って、彼自身のアベコへの思いのことでもあるんだろうな(でも奥さんと別れる気はなさそうだけど)。

今日が東京・大阪あわせて千秋楽。ラストはスタンディングでした。いい舞台だったもんね。
楽しかったです。そしてピザが食べたくなりました(笑)。「ピザアミーゴ!!」

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