久々に普通のバウを見た。
話。まともだ。面白いしつじつまも合ってる。
出演者。みんな演技が上手い。脇役に至るまで学芸会テイストじゃない。
びっくりだ。

『Le Petit Jardin』観て参りました。もずえさんとデート。
チラシには「お洒落な恋を召し上がれ」とゆー、少々恥ずかしいコピー。
2週連続エリザで愛と死の輪舞にどっぷりだったもずえさんと、新橋演舞場帰り(違)の私は、最初この「お洒落な恋」に乗り切れなかったんですが。
大丈夫、すぐ慣れました!
だってこれ少女漫画だよね。しかも、私が少女だった頃(笑)の少女漫画。だからお洒落と言うのとはちょっと違う気がするんだけど、でも綺麗で繊細。そして丁寧な、良心的な佳作。
プログラムも買っちゃいました。もずえさんに見せてもらって済ませるつもりだったのに。
だって登場人物紹介の年齢、出身地、星座、血液型って! すげー、漫画の設定資料だ。各場面の出演者も四葉のクローバーをあしらった綺麗な表で、凝ってます。

美しい舞台。
舞台はずっとレストランの中。Le Petit Jardin−小さな庭の名のとおり、さみどりの爽やかな装置・美術。風が吹き抜けるような開放感のある空間。舞台の奥にはピアノ、BGMは生演奏も。
場面ごとに小道具や照明で色が加わり、様々な顔を見せる。キッズランチの赤、お掃除のオレンジ、夜の濃いブルー。
そして、薄紫のエリカ。

物語はシンプル。
田舎の良心的で家庭的なレストラン、Le Petit Jardin。従業員たちは主人公・アランを中心に亡き前オーナーシェフの精神を守り地元に愛され、誇りを持って働いている。そこへ突然現れる前オーナーの娘・セシル。彼女はレストランを一流にするべく彼らが守ってきたものを全てぶち壊そうとするが、実はその行動の裏には父親への反発と愛情があり、いつしかレストランのよさを理解し、和解していく。

ラブストーリーとしても、誠実な大人の男である魅力的な主人公と、一見嫌な女だが徐々に彼に心を開き惹かれていくヒロイン、彼を慕うが恋愛対象として見てもらえない妹的サブヒロイン、と定番。

でも。
この作品は、そんな定番なストーリー、キャラクターを、繊細かつ丁寧に描いているから。

ヒロイン、セシル。
アメリカ留学帰り、レストラン学で優秀な成績を修めそれを実践するために「自分の持ち物」であるレストランを変えようとする。店を愛する従業員たちを見下しきった、高飛車で嫌な女。
でも、物語はそんな彼女の鎧の下を、丁寧な描写とエピソードの積み重ねで徐々に明らかにしていく。
キッズランチで両親の離婚を心配する子供たちに向ける目線、エリーヌが倒れたときの反応で、彼女が本当は思いやり深い人間であることがわかる。
そして、朝食をとらない理由。それが明らかになるとき、彼女の中の傷ついた少女が見える。
親に愛されなかった寂しい女の子。それを克服しようと強くビジネスライクであろうとする女性。
だからアランも、彼女に惹かれる。放っておけない。

この、ブレックファーストの場面がいいんだよなあ。美味しそうだし。セシルの心を解きほぐしていくアランが格好いいし、ぎこちなく心を開いていくセシルが可愛いし。
見ていて、誰かとゆっくり朝ご飯が食べたくなりましたよ、うっかり。

演じる美羽あさひちゃんも、きれいでした。
話が進むにつれてどんどん魅力的に見えてくる。セシルと同じように。
突っ張って、棘だらけで、鎧の下に柔らかな心を隠した、張り詰めたキャラクター。最初は、その張り詰めた緊張感が美しかった。いかにもキャリア志向なブランド風ファッションを着こなして。
そして最後、彼女のためのディナー「セシルの庭」。
現れた姿を見て、息を呑んだ。
黒を基調とした、しかしフロント部分のフリルと指し色の金が華やかなイヴニングドレス。華やかに花開いた、笑顔。この段階で、ディナーの成功は約束されているのだと思える。

もう一人のヒロイン、エリーヌ。
パリで美容師を目指したけれど化学物質過敏症で田舎に帰ってきた女の子。両親に守られ、みんなに愛され、農薬を使わず栽培した花でレストランを飾るガーデナー。
一見問題がない、可愛らしく素直な女の子に見える分、セシルよりエリーヌの方がより難しいキャラかもしれない。彼女の孤独と焦燥を表現するのは。
両親に守られ、みんなに愛されてはいるけれど、突然の病気で夢を断ち切られた女の子。生活環境も職業も、生き方も制限された女の子。みんな大切にしてくれるけれど、私は子供じゃない。
思う人も彼女に優しくはしてくれるけれど、彼女の恋を受け止めてはくれない。アランがセシルに自分の過去を語ったと聞いて、私も、と言うエリーヌにアランの答えは「君は、まだ」。
鳥籠を抱え、籠の中の小鳥に自らを見立てて歌う彼女の姿は、切ない。

結局、彼女は自分ひとりで解決して仲間の元に戻るのだけれど。その時前髪を上げて出てきたのには納得。表現が細かい。

花影アリスちゃん。華奢で儚げ……なんだが、ダンスのキレはオトコマエ。キッズランチの振りの握りこぶしなんて、すげー力入ってます。見かけによらずやんちゃなところがあると見た(笑)。今回はそれも、パリの美容室で働いていた頃のエリーヌは元気で活発な女の子だったんだろうな、と言う感じで、良かったんじゃないかと。

主人公、アランは誠実で包容力ある大人の男。仕事も有能で、仲間にも信頼されている。
そんな彼の過去の傷は、ソムリエとして華やかな成功を収めていた若い頃、孤独に置き去りにした妻を亡くしたこと。その妻の名もセシル。
目的を失った彼はこの田舎のレストランで知った。ソムリエに大切なことはワインの知識だと思っていた、しかしそうじゃなかった。大切なのは、お客様を幸せにすることだ、と。

アラン、すげーかっこいいです。
一番ぐらんと来たのは、1幕。何となく会話し、でもまだ心が通じ合ってはいない二人。送っていこう、とセシルの肩を抱くアラン。そのまま抱き寄せてキス、と思いきや、手首を捉えてそこに口付け。
……うっわー。

あてがきではないけれど、誰がやっても格好いい役。
遼河はるひくん、見ているうちにどんどん格好よく見えてきました。あのトップさんの背中を見て育つとこんな風になるのかなあと。長身とスタイルの良さは武器だよなあ。髪型も長めで少しふわっとして、ポスターよりずっといい。
正直、格好よすぎてリアリティがなくもあるんだが。女の子二人は妙に描写が細かくリアルなのに男性は、って、その辺も少女漫画かも(笑)。

景子先生とは波長が合うのか、私はずーっとうるうるしっぱなしでした。金婚式から後は泣きっぱなし。
で、サービス満点客席下りフィナーレで笑顔。バウで出演者全員客席に下りてくれるとすげー楽しいです。その後、客席下りに参加できなかった夢氏(ラストシーンからフィナーレになだれ込むため、その時出ていないルイスは出られない)にちょっとした見せ場があるのもツボ(笑)。

この話「レストランでは何も残るものはない。お客様に幸せな時間を過ごしていただくことが全て」って、舞台もそうだよね。テーマかぶらせてる。
だから余計に、一生懸命演じている出演者の姿を見ていると泣けてしまうのさ。
そして。それってどんな仕事も同じだよなあ。後世に残る仕事なんて殆どない。できるのは今いる人の役に立ったり、幸せにすることだけだ。

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