行ってきました。
http://www.bunkamura.co.jp/museum/event/belgium/index.html
思いの外空いていてびっくり。GWは意外と渋谷は人が少ないのか、それともベルギー象徴派がマイナージャンルだからか。
私自身、ベルギー象徴派の画家たちを認識したのは、トレヴィルというマイナーな出版社の画集から。トレヴィル、今は無いんだっけ?(ちなみにトレヴィルを知ったのは久世光彦の『泰西からの手紙』で。興味の連鎖)
買ったのは『水の女』『黄泉の女』。ラファエル前派が多く載っていたからですが、ベルギー象徴派の絵もありました。特に『黄泉』の方に。
次の出会いは姫路市立美術館。ベルギーの画家の絵を蒐集している個性ある美術館で。おかげでこのジャンルの展覧会を観ることができて。。
そして、今回のベルギー象徴派展。
えーと、解説ボードによると象徴派というのは「光ではなく闇、現実ではなく幻想」を描き、取り上げる題材は「神秘、夢、異端」。そりゃ私が好きになって当然か。「象(かたち)が直接的に表すものよりも、それによって暗示的に間接的に徴(しる)されるものに辿り着こうとした」と。
19世紀末「フランスで始まった象徴派はベルギーで得意な発達を遂げ」たそうで。そう聞くとこういう美術を育んだベルギーに一度行ってみたくもなるなあ。
出展数が多いのは、ロップス、クノップフ。やはり代表的な作家はこの二人なんだろうか。次いでフレデリック、メルリ、デルヴィル、アンソール、スピリアールトとか。
以後、だいたい展示順に。全部じゃないけど。
・シャルル・ヴァン・スタッペン
『スフィンクス』
ブロンズ像。スフィンクスと言っても、端正で物憂げな少女の頭像。頭部の羽やら何やらの装飾が魅惑的(装飾過多の批判もあったらしいけど)。
・フェリシアン・ロップス。
出展作は小説の挿絵が多いのかな。なんつーか、かなり直裁的にエログロ。ポスター等で紹介されている美しげな絵を見て親子連れで来た客は戸惑うかもしれん、と思われるような(苦笑)。既知の作家ではブレイクとかビアズリーの方向性が近いのかも。
・レオン・フレデリック
作風としてはデコラティヴでマニエリスティックで細部までくっきり描きこむ印象。つまり過剰。最後に展示してあった『正三位一体』が一番好きかな。白と金の印象が強い絵。宗教画なんだけどこの過剰さがどこか異教的で、不安感がある(とキリスト教徒でもない私が言うのも変だが)。書き込みすぎでかえって時が止まってしまった、死の世界であるような。
・グザヴィエ・メルリ
一転して色も線も素朴な感じ。同じベルギー象徴派と言っても作風は色々らしい。『マルケン島』の2枚の絵の隅に居る猫が可愛い(をい)。
・フェルナン・クノップフ
私にとってベルギー象徴派と言うとこの人だなあ。今回出展はされていないけれど『愛撫(スフィンクスと青年の絵)』は知っている人も多いんじゃないだろうか(映画『エイジ・オブ・イノセンス』でミシェル・ファイファー演じるエレンの家に飾られていた絵)。
で、私はこの人の絵が一番好きだなあ。
ラファエル前派との類似性を一番感じるのもこの人。幻想の世界のどこかなぞめいて危険な美しい女性像。但し、クノップフの方がより輪郭は曖昧に、空気に溶けそうな風情がある。(パステルを使っているからか)
そういう意味では『メリザンド』が好きです。美しい、空気に消え入りそうな女性の横顔。儚いファム・ファタル。
『青い翼』も好き。白いヒュプノスの頭像の翼の部分だけが青い。そしてその下に敷かれた青い布。白い衣の女性、淡いピンクのカーテンやテーブル(?)の中で、鮮やかな印象の青。
『グレゴワール・ロワと共に−わが心は過去に涙す』これも比較的知られている、と言うかクノップフらしい作品なのかしら。セピア色のやわらかい風景。鏡に頬を寄せる女性。
『「聖アントニウスの誘惑」または「シバの女王」フローベールより』これは漆黒の背景に聖アントニウスと思しき老人とシバの女王と思しき女性が゜描かれており、シバの女王は金銀の光彩で飾られている、ちょっと毛色の違う絵。これも好きだなあ。
ちなみにこの絵には物語があるらしく、解説によると「聖アントニウスの前にサタンを始めシバの女王、仏陀、キリスト、ヘラクレス、スフィンクスなどが登場して戦う」……。何かいまどきの日本でもオタクがかった漫画誌に載ってそうなトンデモ話っぽいな。妙に親近感(笑)。
・ヤン・トーロップ
『二人の女』一点のみ。金属の額縁と一体になっている絵で、絵の中の女たちの髪がフレームにまで続けて描かれてるんですね。その辺の装飾性はクリムトを連想したりするんですが。この人の絵、というか女性像も独特だよなあ。不気味なんだけど乾いた感じで。面白い。
・ジャン・デルヴィル
幻想を描くと言う意味ではとても幻想的な絵。クトゥルフ小説の挿絵だと言われたら信じそうな。明るい色なのに、画面の隅々まで描きこまれた色やうねりが何となしに薄気味悪い辺り。
その中では青一色の押さえた色調の『死せるオルフェウス』が好きです。
・ジェームズ・アンソール
この人もベルギー象徴派の枠内なんだろうか。唯一無二という感じもするんですが。敢えて言うならボスの直系とか。
・オーギュスト・ドネイ
『人生の三段階』この絵好きだなあ。普通にきれいな女性像で。でも寂しげな。
・ウィリアム・ドグーヴ・ヌンク
これもクトゥルフ世界かと(勝手な)。『爛れた森』『謎めいた森』、異形の化物が今にも姿を現しそうな気配がぷんぷんします。描かれてはいないんだけど、気配が。私の妄想ですか?
・レオン・スピリアールト
この人の活躍時期は20世紀初頭なんですな。モノトーン中心でやや毛色が違う。『セマホア信号所』『オステンドの夕べ』等の風景画が気に入りました。人物でなく。特に『オステンドの夕べ』は坂を上がった向こうに何があるのか、切り取られた明るい道のイメージが気にかかって、好き。
スピリアールトで、展覧会はおしまい。
何かを語るときに別の何かを引き合いに出すことが多いのは、スノビズムと感性の貧しさを物語っているようで、我ながらちょっと嫌ですが。
象徴派の解説書も買おうかと思ったけれど、高価なので躊躇。代わりにと言っては何だが岩波文庫の『死都ブリュージュ』を買う(こんなものまで置いてあるBunkamuraは商売上手)(ちなみに小説自体はあまり響いてこなかった)。
まとめ。
現実逃避は楽しいなあ(うっとり)。
ってそんな感想でいいのか。
いや、だからこそこれらの作品を生んだベルギーに興味が湧いた訳ですが。
でも、そんなイメージを持ってベルギーに行ってもそれは間違いだと言う気もするけれど。『死都ブリュージュ』はブリュージュでは不評であったらしいし(死都なんてとんでもないことを言うなと)。
夢のベルギー、ベルギーの悪夢。
http://www.bunkamura.co.jp/museum/event/belgium/index.html
思いの外空いていてびっくり。GWは意外と渋谷は人が少ないのか、それともベルギー象徴派がマイナージャンルだからか。
私自身、ベルギー象徴派の画家たちを認識したのは、トレヴィルというマイナーな出版社の画集から。トレヴィル、今は無いんだっけ?(ちなみにトレヴィルを知ったのは久世光彦の『泰西からの手紙』で。興味の連鎖)
買ったのは『水の女』『黄泉の女』。ラファエル前派が多く載っていたからですが、ベルギー象徴派の絵もありました。特に『黄泉』の方に。
次の出会いは姫路市立美術館。ベルギーの画家の絵を蒐集している個性ある美術館で。おかげでこのジャンルの展覧会を観ることができて。。
そして、今回のベルギー象徴派展。
えーと、解説ボードによると象徴派というのは「光ではなく闇、現実ではなく幻想」を描き、取り上げる題材は「神秘、夢、異端」。そりゃ私が好きになって当然か。「象(かたち)が直接的に表すものよりも、それによって暗示的に間接的に徴(しる)されるものに辿り着こうとした」と。
19世紀末「フランスで始まった象徴派はベルギーで得意な発達を遂げ」たそうで。そう聞くとこういう美術を育んだベルギーに一度行ってみたくもなるなあ。
出展数が多いのは、ロップス、クノップフ。やはり代表的な作家はこの二人なんだろうか。次いでフレデリック、メルリ、デルヴィル、アンソール、スピリアールトとか。
以後、だいたい展示順に。全部じゃないけど。
・シャルル・ヴァン・スタッペン
『スフィンクス』
ブロンズ像。スフィンクスと言っても、端正で物憂げな少女の頭像。頭部の羽やら何やらの装飾が魅惑的(装飾過多の批判もあったらしいけど)。
・フェリシアン・ロップス。
出展作は小説の挿絵が多いのかな。なんつーか、かなり直裁的にエログロ。ポスター等で紹介されている美しげな絵を見て親子連れで来た客は戸惑うかもしれん、と思われるような(苦笑)。既知の作家ではブレイクとかビアズリーの方向性が近いのかも。
・レオン・フレデリック
作風としてはデコラティヴでマニエリスティックで細部までくっきり描きこむ印象。つまり過剰。最後に展示してあった『正三位一体』が一番好きかな。白と金の印象が強い絵。宗教画なんだけどこの過剰さがどこか異教的で、不安感がある(とキリスト教徒でもない私が言うのも変だが)。書き込みすぎでかえって時が止まってしまった、死の世界であるような。
・グザヴィエ・メルリ
一転して色も線も素朴な感じ。同じベルギー象徴派と言っても作風は色々らしい。『マルケン島』の2枚の絵の隅に居る猫が可愛い(をい)。
・フェルナン・クノップフ
私にとってベルギー象徴派と言うとこの人だなあ。今回出展はされていないけれど『愛撫(スフィンクスと青年の絵)』は知っている人も多いんじゃないだろうか(映画『エイジ・オブ・イノセンス』でミシェル・ファイファー演じるエレンの家に飾られていた絵)。
で、私はこの人の絵が一番好きだなあ。
ラファエル前派との類似性を一番感じるのもこの人。幻想の世界のどこかなぞめいて危険な美しい女性像。但し、クノップフの方がより輪郭は曖昧に、空気に溶けそうな風情がある。(パステルを使っているからか)
そういう意味では『メリザンド』が好きです。美しい、空気に消え入りそうな女性の横顔。儚いファム・ファタル。
『青い翼』も好き。白いヒュプノスの頭像の翼の部分だけが青い。そしてその下に敷かれた青い布。白い衣の女性、淡いピンクのカーテンやテーブル(?)の中で、鮮やかな印象の青。
『グレゴワール・ロワと共に−わが心は過去に涙す』これも比較的知られている、と言うかクノップフらしい作品なのかしら。セピア色のやわらかい風景。鏡に頬を寄せる女性。
『「聖アントニウスの誘惑」または「シバの女王」フローベールより』これは漆黒の背景に聖アントニウスと思しき老人とシバの女王と思しき女性が゜描かれており、シバの女王は金銀の光彩で飾られている、ちょっと毛色の違う絵。これも好きだなあ。
ちなみにこの絵には物語があるらしく、解説によると「聖アントニウスの前にサタンを始めシバの女王、仏陀、キリスト、ヘラクレス、スフィンクスなどが登場して戦う」……。何かいまどきの日本でもオタクがかった漫画誌に載ってそうなトンデモ話っぽいな。妙に親近感(笑)。
・ヤン・トーロップ
『二人の女』一点のみ。金属の額縁と一体になっている絵で、絵の中の女たちの髪がフレームにまで続けて描かれてるんですね。その辺の装飾性はクリムトを連想したりするんですが。この人の絵、というか女性像も独特だよなあ。不気味なんだけど乾いた感じで。面白い。
・ジャン・デルヴィル
幻想を描くと言う意味ではとても幻想的な絵。クトゥルフ小説の挿絵だと言われたら信じそうな。明るい色なのに、画面の隅々まで描きこまれた色やうねりが何となしに薄気味悪い辺り。
その中では青一色の押さえた色調の『死せるオルフェウス』が好きです。
・ジェームズ・アンソール
この人もベルギー象徴派の枠内なんだろうか。唯一無二という感じもするんですが。敢えて言うならボスの直系とか。
・オーギュスト・ドネイ
『人生の三段階』この絵好きだなあ。普通にきれいな女性像で。でも寂しげな。
・ウィリアム・ドグーヴ・ヌンク
これもクトゥルフ世界かと(勝手な)。『爛れた森』『謎めいた森』、異形の化物が今にも姿を現しそうな気配がぷんぷんします。描かれてはいないんだけど、気配が。私の妄想ですか?
・レオン・スピリアールト
この人の活躍時期は20世紀初頭なんですな。モノトーン中心でやや毛色が違う。『セマホア信号所』『オステンドの夕べ』等の風景画が気に入りました。人物でなく。特に『オステンドの夕べ』は坂を上がった向こうに何があるのか、切り取られた明るい道のイメージが気にかかって、好き。
スピリアールトで、展覧会はおしまい。
何かを語るときに別の何かを引き合いに出すことが多いのは、スノビズムと感性の貧しさを物語っているようで、我ながらちょっと嫌ですが。
象徴派の解説書も買おうかと思ったけれど、高価なので躊躇。代わりにと言っては何だが岩波文庫の『死都ブリュージュ』を買う(こんなものまで置いてあるBunkamuraは商売上手)(ちなみに小説自体はあまり響いてこなかった)。
まとめ。
現実逃避は楽しいなあ(うっとり)。
ってそんな感想でいいのか。
いや、だからこそこれらの作品を生んだベルギーに興味が湧いた訳ですが。
でも、そんなイメージを持ってベルギーに行ってもそれは間違いだと言う気もするけれど。『死都ブリュージュ』はブリュージュでは不評であったらしいし(死都なんてとんでもないことを言うなと)。
夢のベルギー、ベルギーの悪夢。
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