素晴らしかったです。大満足しました。
私にとっては、ですが。

最初のシーンで、タニちゃんにオペラグラスを合わせた。
オペラ越しにまっすぐ貫いてくるそのまなざしにつかまれた。
オペラを上げても、目が離せない。表情の変化を、しなやかに動く手足を一瞬たりとも見逃したくない。
どうしよう。

と言う訳で、1回しかない観劇、潔くスコット=大和悠河だけを見つめることにしました。
他は全部捨て(笑)。ほとんど一人芝居のようなものと聞いていたので、それで話がわからなくなって困ることはないだろうと。
元々華がある人とは思っていたけれど、主役ということでその華が遠慮会釈なしで全開に発散されていてる感じだった。

大輪の華、大和悠河の輝きをバウホールと言う小空間で思うさま堪能できる2時間、贅沢でした。
ファンは必見。タニちゃんを魅力的だと思っている人は見て間違いはないです。
私は元々好きだし、更に今回はスイッチが入ってしまったんで、そうでない人がどう評価するかは、正直わからないけれど。

って言って終わりにしても十分な気もするんですが、もう少し感想を。

私は物語なんか見ていなかったのかもしれない。
ただ、きらきらぴかぴか光る美しいものが、転がって傷つき、曇り、それでも輝きを失わないまま最後には消えてしまうさまを見ていた。
いとしく、かなしく思いながら、ずっと見つめていた。
それは私にとって、濃密な時間だった。

スコット・フィッツジェラルドの一代記ではあるけれど、その生涯は青春の夢と栄光と挫折、そして青春の終わりが人生の終わり。
1幕の最後でスコット自身が「青春は終わり、人生と言う荒波に漕ぎ出さなければならなかった」と言っているけれど、そして実際に漕ぎ出そうともがいてはいたけれど。
結局彼は人生と呼べる営みを手に入れられないまま、果ててしまった。
何かを手に入れるには何かを失わなければならないと言うことを理解しないまま。全てを手に入れようと伸ばした手をおろさないまま。

しかも、幕を下ろしたのは彼自身。
彼の腕がひるがえり、物語が終わる。
自分が空を飛べることを忘れていたピーターパン。ふと翼の存在を思い出して、そのままこの世から消えてしまった。
そして彼は、彼が置き去りにした人々の心の思い出として永遠に残る。
そんな感じ。

20年代アメリカの寵児、プリンスと呼ばれたスコットの輝きを、そのままタニちゃんの輝きに重ねて見ていました。
タニちゃんが演じるスコット。スコットの中のタニちゃん。
きらきらした魅力的な青年。顔もスタイルも完璧ったら。
成功に喜ぶ無邪気な笑顔も、思うように書けない鬱屈も、スコッティに精一杯「お父さん」してみる姿も、ゼルダとの傷つけあいに怒鳴る姿も、落とした肩も疲れた瞳も。
いとしくて、切なくて、思い切り感情移入して見てました。
本当に主人公中心な芝居だからに、主人公に感情移入できれば勝ったも同然、ってことだよなあ。

できたらもう1回見たかったけど。もう1回見たら違った感想が出てきたと思うけど。
月バウを見るとき、私はやっとこの作品自体を見ることが出来るかもしれない。
って言うか、作品自体主人公の比重がめちゃくちゃ高い上にこんな見方をしたので、きっと月バウは全然違う話に見えると思います(笑)。

他のキャストについては語れるほど見てないんですが、ちょっとだけ。

ゼルダ=彩乃かなみ。
正直、最初は「月のるいちゃんで見たいなぁ…」と思ってました。
かなみちゃんが悪いわけじゃないけれど、ゼルダの常軌を逸した感じ、フラッパーガールぶりは、かなみちゃんよりるいちゃんのキャラでしょう。
最初の、ニューヨークに来て浮かれ騒いでいるあたりは、ちょっと人に合っていない感じで辛かった。
でも、ゼルダが壊れ始めてからは俄然良くなってきました。特に、精神病院に入ってからは繊細さ不安定さがすごく良かった。
演技力なんだろうな。

アーネスト=遼可はるひ。
でかっ。
一本調子な気がしたけど、そういう設定の演技なんだろうな。
フィッツジェラルドは蝶、ヘミングウェイは牛、と言われていたけれど、そういうことならこんなもんなんでしょう。(えーじゃあ月ではどうなるの?)

学生その他=珠洲春希くん。
かーわいー。いや、従者の邪悪な笑顔の印象が強いもんでちょっとびっくりした(好みの顔らしいです)。

あと娘役ではスコッティ(スコットとゼルダの娘)=咲花杏と、ローラ(スコットの秘書)=美風舞良が可愛かったな。

最後に。
時折「役者」の部分が出てくる部分は、余計じゃないかなあ。
最初発表された配役表に「YAMATO(スコット)」とあってどうするんだろうと心配していて、その心配ほどはうるさくなかったけど。
でも、クライマックスで「さあこの場面をどう演じるか」とか言われちゃうと、興ざめな気がして。全編スコットで通してくれた方が感情移入が出来て、私の好みで言うとその方が良かったなあ。
最後、役者が自分の役に対して、Dear ゼルダ、等々呼びかけるのはまぁ許容範囲だけど(後日談が救いになったし)「アメリカは今も戦い続けてる」まで言っちゃうと、涙も引っ込んでしまいました。
無理に普遍性を持たせようとしないで「スコットの物語」として完結して欲しかったなあ。
ま、作品を語れるほど見てたのかと聞かれると、怪しいんですけどね。

とりあえず、全体の感想としてはいいもん見せてもらいました。
月が楽しみです。

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