はい。緑野さんと「み」さんの歌話に便乗でーす。

結論から言うと、私も汐美さんの歌が下手だと思ったことはありません。

は? ワタルファンに言われても嬉しくないですか。そうですか(しょぼん)。
ちなみにワタさんの歌も「あーなるほどこの辺が下手だって言われるんだろうな」と思ったことはあっても、自分から「下手だ」と思ったことはありません。
(地声は高い人みたいだから、生来の音域と男役声の歌が合ってないんだろうな、とは思うけど)

それに。
今回の『ドルチェ・ヴィータ!』で私が一番好きな歌は、終盤のケロさんのソロとワタさんのソロなんですよ!
今までも何度か書いてますが、この2曲は私の感情を根元から揺り動かし、肺腑をえぐる。それだけの何かを私に与えてくれる。
だから大好きだ。好きというか、揺さぶられる。

『ドルチェ・ヴィータ!』は歌うべき人が歌い、踊るべき人が踊る適材適所なショー、というのはあちこちで言われていることですが、更に、歌い手の配置も適材適所ですよね。
歌い手と言うか、声。どの場面のどの歌を、どの声に歌わせるか。

物語全体を紡ぐのは、ディアボロ(安蘭)。
文句なしに上手い、と言うのは周知のこととして。
甘く昏く、時に優しく時に鋭く、様々に変化させながら、しかしその声は根本的には常に端正。その端正さが、悲しみと諦念を匂わせる抑制。物語のトーンを決めるにふさわしい。

オープニング、銀橋で歌う男役コーラス(英真、他)のざわざわとざらついた感触は、聞く者の心もざわめかせる。
男と女の出会いに、この世のものと思われぬハイソプラノ(仙堂)は、これが異界への誘いであることを暗示する。
その女(檀)の声は果てしなく甘く甘く。正にDolce。甘い毒にからめとられてどこまでも堕ちて行きたくなるドルチェ・ヴィータ。

花市場では、娘役3人(南海、花愛、華美)の声がアイドルグループのように甘く明るくきらめく。「女の子たち」の明るさが歌詞に秘められた残酷さを引き立てる。

サテリコン。金属的な高音(毬乃)。オープニング同様、通常とかけ離れたハイトーンは異界のしるし。不安と憧れをかきたてるセイレーン。
そしていよいよの破滅に際しては、ざらついた感触の低音が急き立てるように歌い、胸騒がせる(矢代、英真)。その存在感が運命の響きになる。

豪華客船。別れのデュエットダンスを彩る歌。人生の酸いも甘いも知り尽くした、大人の女の歌(矢代)。滋味に満ちた声はこれが別れであることも、それでも思い出は甘くやさしいものであることも知っている。
それが、青年の声になる(高央)。諭すように思い出に向かっていた声が、未来へのまなざしを持った声に変わる。別れの主旋律は、思い出から未来に変わる。友の旅立ちに捧げる歌。

青の洞窟。セイレーン(仙堂)は初めて甘くやさしい旋律をうたう。海神と少女の恋を言祝ぐように。でもそれはやはりセイレーンの声。そこは異界。やさしさの裏に人ならぬ身の残酷さが貼りつく。それを知るからこそ海神は少女を手放す。

そして、この声の万華鏡が織り成す仮面舞踏会において。
主人公(湖月)と、もう一人の主人公(汐美)の声は、生身の男の声だ。
生身の人間の体温がこもった、思いを伝える声だ。

歌が下手、というのはどういうことを言うんだろう。
音程が不安定とか、発声に無理があるとか?
でも、この物語においては、それすら人間の証じゃないか。

思いが揺れるから、声が震える。
胸が苦しいから、声が詰まる。

実際、オープニングの銀橋で音域的に無理があるのかワタさんの声が苦しそうなフレーズがあるんですが、そこを聞くと自分も胸締め付けられるようでぎゅっと苦しくなりますもん。
主人公の憧れと絶望が乗り移ったように。

冒頭に挙げた2つのソロは言わずもがな。毎回心臓つかまれてます。
特に汐美さんの声に。
あの場面にはあの声が必要だ。

思い込み激しすぎますか?
でも私はそう聞こえるし、そう信じてますから!
この二人のソロが大好きだと胸を張っていえるさ(そんなに気合を入れんでよろしい)。

と言う訳で、もし「今回の曲は相性が悪い(緑野さん談)」言うことで歌いづらそうだとしたら、それすら適材適所の一環、荻田氏の計算なんじゃないかと思ってます。
(ワタさんの痛い歌詞のソロが長いダンスナンバーの直後にあるのも同様の理由と推察)

あれ?
……結局これ「オギー賛小論文・ドルチェ・ヴィータにおける歌い手の使い方」だよ。
「歌が下手だと思っていない」って話じゃなくなっちゃいましたか。
いや、いいんですよ。高度で端正な歌は誰にでも歌えるものじゃないけれど、物語を伝えることのできる歌だって誰にでも歌えるものじゃないんだから。芝居の歌は台詞のうちだし!
(収拾がつかなくなったので言い逃げて退場)

あ「もう一人の主人公」は10/17日記参照。

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