ファントム@宝塚宙組大劇場、OMC貸切公演観てまいりました。

一番びっくりしたのは、フィナーレの男役群舞。
和央ようかがかっこつけたポーズで歌いだしたこの曲は、
「行け我が思いよ Va pensiero」だーっ!
アレンジしてありますが、歌詞もなんかラブソングになってますが、私の頭には元の歌詞とヘブライ人の合唱の姿が……つーか歌っちゃうよ。
何でこの曲をこんな風に使うかなー!と言う衝撃が大きすぎて、その前の本編がぶっ飛んでしまいました。

今回の『ファントム』。1本立てミュージカルで劇団は『エリザベート』再びとか思っているかもしれないけど、そこまでは及ばないかなーと言う感じでした。
まあ、きれいだし、それなりにいい話ではありましたが。

主役のファントム=エリック(和央ようか)は少年でした。少年と言うよりお子さま。クリスティーヌ(花総まり)への恋心も、独占欲とおずおずとしたぎこちないアプローチ振りは世慣れない無垢な子供。逆にブケーやカルロッタを簡単に殺してしまう残酷さも子供のもの。幼いころは(おそらく正気でない)母親と二人きりで暮らし、母の死後はキャリエール(樹里咲穂)の庇護の下、彼の他には誰とも会わずオペラ座の地下を己れの王国として育ち。

子供のまま大人になってしまったファントム。
そんなファントムの物語のクライマックスは、恋ではなく、父との名乗りと和解でした。
一番盛り上がったのは、2幕後半のファントムとキャリエールのシーンです。
銃弾に傷つき人々に追われるファントムを命がけで助けようとするキャリエール。逃避行の中(銀橋で)、二人は初めて打ち解けた会話を交わす。
ここの会話がもう!心にぐさぐさ来ます!
「私の席からはキャリエールしかよく見えなかったのですが、これがもう、やっと息子を息子と呼べた喜びをかみしめる様が……素晴らしい。
またファントムも素直な少年らしさを見せるし。
もうこれは台詞をそのまま書き残したい場面です。
「僕の母を知っていたとか?」「ああ」
「母を……愛していたとか?」「……ああ」
「で、どう思う?」「何が」「息子の顔さ」「もう少しましだったらなあ!」「テノール歌手には向かないな」「バリトン歌手にもな」
「その傷さえなければ、お前は素晴らしい歌手になっただろうに……」

でも幸せは一瞬で。
警官に捕らわれたファントムはキャリエールに約束=その時が来たらキャリエールの手で人生を終わらせてほしい=の履行を望み、キャリエールは苦悩の末に引鉄を引く。

クライマックスがすっかりファントムとキャリエールで盛り上がるので、ヒロインであるはずのクリスティーヌの影が薄かったです。
脚本と演出のせい……と言うか狙ってそういう風にしてるんだろうなあ。
一番気になったのはファントムとフィリップ(安蘭けい)が格闘する場面でした。ファントムとキャリエールが警官に見つかった後。
ヒロインを愛する二人の男が戦ってるっていうのに、なんでヒロインは黙って突っ立ってるんだ?
彼女の心がどちらにあるか示すべきシーンではないですか。フィリップ優勢のときに「止めて!私はその人を愛してるの!」とか叫んで、彼女の思いを知ったファントムが駆け寄ろうとして警官に取り押さえられるとか。逆にフィリップを殺そうとしたファントムに「殺さないで!」と叫んでファントムが余計誤解して自暴自棄になるとか。盛り上がるシーンなんじゃないかなー。
それをあえてやらないのは、クライマックスを銀橋でのファントムとキャリエールの和解、そしてファントムの望みどおりに彼を殺すキャリエールに置きたかったからでしょう。
ラスト、息絶えようとするファントムのマスクをはずして口づけするクリスティーヌは良かったけどね。

2幕ものの舞台としては、1幕が盛り上がりに欠けました。それに対して2幕は怒涛の盛り上がり。これ、構成に失敗してるんじゃないかなあ。
キャリエールの出番が前半殆どないんですよね。だから、後半盛り上がるんだけど、ちょっと唐突。もっと伏線引いておいてくれても良かった。
逆に、前半を全体的にもっとあっさりやって、キャリエールの比重を上げるとか。うん、その方がいいかも。
でもそうすると他のキャストの出番が余計に減っちゃうから、駄目か。

こういうこと考えると、この作品、宝塚で大劇場で2幕ものでやるには向かなかったんじゃないかと言う気がしてきました。
主要キャストはファントムとキャリエールとクリスティーヌ。フィリップ・シャンドン伯爵は……微妙。あと目立つのはカルロッタと新支配人のショルくらいで、あとはその他大勢劇団員でもOK。
1幕終わった時点で一番気に入ったのがカルメンの稽古シーンで、群舞が格好よくて(本当に格好いい!)好きなんだけど、ストーリー的にはこのシーン要らなかったなあ。でもこのシーンがないと遼河はるひとか悠未ひろとか出番ないよね。宝塚的には大いに見所。
逆にカルロッタ(出雲綾)文句なく上手かったけど、宝塚ならではという要素ではない。
演目選び、失敗した気がする……。

ミュージカルとしてはまあ良いのではないかと。曲も美しくて、オペラティックな序曲から期待が盛り上がる。耳に残る美しいメロディが多い。オープニングのファントムのアリア、じゃない、ミュージカルナンバーとか、回想シーンのアヴェマリアとか、良かったです。
でも、宙組さんって、歌の組じゃないよね。和央ようかも花総まりも上手いけど、このミュージカルはクラシカルな発声で歌い上げることが要求されているような気がする。その辺物足りなかったのも1幕目が盛り上がらなかった一因かと。

宝塚でない他のカンパニーで取り上げたらどうなるんだろう、とか考えてしまいました。
でもファントムとクリスティーヌが寄り添う美しさは宝塚ならではだよなー。
あと従者。ファントムとともに在り彼のために働く黒ずくめの従者たち。よく考えると謎な存在だけど、考えなければ目に楽しい。原作にもいるんだろうか? これも宝塚ならではの美青年、美少年揃い。

キャストについてもうちょっと個別に。
ファントム=エリック。若い!
精神的にお子さまなのは既に書いたけど、肉体的にもアクティブなファントム。リハーサルに紛れ込んで周囲を翻弄したり、警官隊と殴り合ったり。
ふつー、ファントムって姿を現さずオペラ座の裏の構造を熟知して神出鬼没、ってイメージなんだけど、このファントムはその点も若かったです。
和央ようかはさすがの美しさ。すらっとした姿が少年ファントムらしさを際立たせていたなあ。ただ、ポスターがこの世ならぬ美しさなので、ちょっと期待が大きすぎたかも。
歌は、歌い上げる声はいいんだけど、歌詞がわからないところがあるのが残念。わからなくてもいい曲ならそれでもいいんだけど。また歌い上げると歌詞がわかりづらくなりがちなのもわかるんだけど。

字数が尽きたので以下翌日に。

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